「利益が出たら、まず節税」——でも、その多くは税金を消さず、
先送りしているだけです。先送りした利益の“出口”が、増税と重なり始めています。
「今期は利益が出そうだ。何か、節税を考えないと」。決算が近づくと、多くの社長がそう考えます。税理士も、保険や設備の案内をする業者も、期末が近づけば節税策をすすめてくる。「利益が出たなら、やれるだけ節税した方が得だ」——これは、熊本の経営の現場で、ほとんど疑われることのない“常識”です。
でも、確かめてほしいことがあります。あなたがしてきた節税は、税金を「消す」ものでしたか。それとも、「先送りする」ものでしたか。この記事は、節税テクニックの紹介ではありません。先送りしてきた利益の“出口”が、いま増税とぶつかり、しかもそこにまた新しい節税をぶつけると、もっと重い税が待ち受ける——その構造の話です。私たちが熊本・福岡・佐賀の現場で、実際に見ていることでもあります。
「節税は得」。そう言われて、疑う人はあまりいません。でも、その前に確かめたいことがあります。中小企業でよく使われる節税——保険、大きな設備の購入、決算前の駆け込み——その多くは、繰延型(くりのべがた)と呼ばれるものです。今年の利益を経費で圧縮して、税金を減らす。でも、消えたわけではありません。減らした分は、いつか必ず、戻ってきます。保険なら解約したとき、設備なら売ったとき、繰り延べた利益がまとめて表に出て、そこで課税される。つまり「今払わない代わりに、あとで払う」——それが繰延型節税の正体です。
ここで、決定的なことが一つ。繰延型が税率の面で「得」になるのは、税率が下がっていく局面だけです。今の高い税率を避けて、将来の低い税率で払えるなら、確かに得。でも、もし将来の税率が今より高くなっていたら? 繰り延べた利益が戻ってくるとき、あなたは節税どころか、あの時払うより多く払うことになります。先送りは、税率が上がる局面では、裏目に出る。
先送りは、税率が下がる時代の勝ち方だった。上がる時代には、牙をむく。
なぜ、これまで繰延型の節税が「正解」であり続けたのか。答えははっきりしています。日本の法人税の実効税率は、1980年代からずっと、下がり続けてきたからです。かつて40%を超えていた実効税率は、いまや30%前後まで下がってきました。税率が下がる一方の世界では、「今の高い税率を避けて、将来の低い税率で払う」先送りは、理屈のうえで正しかった。だから誰もが、繰り延べてきたのです。
そして2026年4月以後に始まる事業年度から、その流れに、はっきりと逆向きの一歩がありました。防衛特別法人税です。法人税額に対して4%を上乗せする、新しい付加税。正確に言えば、(基準となる法人税額から500万円を引いた額)に4%がかかる仕組みで、課税所得がおよそ2,400万円を超える会社から効いてきます。多くの中小企業にとって、いますぐの負担は大きくありません。けれど、金額の大小が問題なのではありません。40年以上ずっと「下げる」方向だった法人税が、はっきり「上げる」方向に転じた。その象徴が、この税です。しかも、終了の時期は定められていません。
国の財政、防衛費、社会保障。この先、法人への課税が軽くなっていくと、本気で思える材料はありません。「税率は下がり続ける」という、繰延型節税の大前提そのものが、崩れ始めている。——これが、いま起きていることです。
繰延型節税は、「税率は下がる」という賭けだった。その賭けの前提が、崩れた。
前提が崩れただけなら、「これからは気をつけよう」で済みます。問題は、過去に繰り延べた膨大な利益の“出口”が、ちょうど今、集中してやってくることです。
思い出してください。2019年2月——バレンタインショックと呼ばれた出来事がありました。国税庁が、支払保険料を全額経費にできる「全額損金」タイプの法人保険にメスを入れ、大手生保が一斉に販売を停止した。その直前、規制がかかる前に駆け込みで、こうした節税保険が大量に契約されました。この市場は、規制されるまで年間1兆円規模と言われた、巨大なものでした。そこで繰り延べられた利益のストックは、兆円の単位で積み上がっています。
こうした保険は、契約から数年後に解約返戻率がピークを迎える設計のものが多い。つまり、その“出口”——解約して繰り延べた利益が戻ってくるタイミングが、今年(2026年)から2028年にかけて、集中します。これは一般論ではなく、私たちが現場で実際に見ていることです。駆け込みで繰り延べた利益が、まさに今、続々と表に出てこようとしている。
ここまで来ると、構図が見えてきます。繰り延べた利益が戻ってくる「出口」と、法人税が上がる方向に転じた「潮目」が、ちょうど同じ時期に重なった。先送りしたはずの利益が、よりによって税率が上がろうとするその瞬間に、戻ってくる。狙ったわけではないのに、狙い撃ちされたような形になっている。これが、「節税、今まさに狙い撃ち」の正体です。
先送りした利益は、消えてはいない。いちばん税金の重い場所へ、戻ろうとしている。
出口で利益が戻ってくると、そこに税金が生じます。多くの社長は、それを避けようとします。方法はこうです。戻ってきた利益と同じ年に、別の大きな損金をぶつけて、相殺する。役員退職金を出す、大きな設備を入れる——これは、退職や引退という本当の節目と重なるなら、理にかなった手当てです。
問題は、そういう本当の節目がないのに、相殺のためだけに、また新しい“節税商品”をぶつけるケースです。よくすすめられるのが、航空機や船舶などに出資して、初年度に大きな損金を立てるタイプの節税です。戻ってきた利益を、その大きな経費でぶつけて、今年の税金を、また消す。
でも、よく考えてください。その航空機や船舶への出資もまた、繰延型です。数年後には初年度に立てた大きな損金が反転し、繰り延べた利益が戻ってきて、そこで再び利益が立つ。つまり、出口を消したのではなく、もっと大きな出口を、もっと先に作っただけ。しかも、税率は上がっていく方向です。次の出口は、もっと大きな繰延を、もっと重い税率で迎えることになる。繰延を、繰延で消す。雪だるまのように、先送りが膨らんでいきます。
繰延を繰延で消しても、消えていない。もっと大きくして、もっと税の重い場所へ、先送りしているだけだ。
繰り延べの先送りを重ねることでも、目先の税金を消すことでもありません。私たちがするのは、法人と個人、そして承継までを一体で見て、繰り延べた利益がいつ・いくら戻り、そのとき会社はどう構えるのかを、出口まで含めて設計することです。戻ってくると分かっていれば、退職金や投資といった本当の受け皿と、そのタイミングを、慌てずに整えられます。
ただし、税金の計算や申告は顧問税理士の先生の領域で、そこに立ち入るものではありません。出資型スキームの契約が法的にどうかといった精査も、提携する弁護士などの専門家と連携して進めます。私たちが引き受けるのは、その手前——「先送りしてきたものと、どう向き合うか」という、社長の判断そのものです。決算を一枚の図にして、出口までの道筋を、社長と一緒に見ます。
念のため、はっきり書きます。私たちは、節税を頭から否定しているわけではありません。繰延型の節税にも、資金繰りを助けたり、退職や引退という本当の節目に備えたりする、正当な使い道があります。問題は、節税そのものではなく、入り口だけを見て、出口を見ていないことです。いつ・いくら戻ってきて、そのとき税率はどうなっているか。そこまで見て判断すれば、繰延型は今も有効な手段になり得ます。
そして、決めるのは、最後まで社長ご自身です。私たちがするのは、その判断を、業者の「大きく経費が立ちます」という売り文句や、「節税は得」という空気ではなく、自社の決算の数字と、出口までの道筋に裏打ちされたものにすること。それだけです。
整理します。多くの節税は、税金を消すのではなく、先送りしているだけ。先送りが得なのは税率が下がる時代だけで、2026年の防衛特別法人税を境に、その潮目は反転した。しかもバレンタインショック前に駆け込んだ繰延ストックの出口が、今年から2028年に集中して戻ってくる。増税と出口が重なる、まさにその瞬間に。そこで慌てて、また大きな節税商品をぶつければ、もっと大きな繰延を、もっと重い税率の未来へ先送りするだけです。
私たちが熊本で、そして福岡・佐賀でお手伝いしているのは、この「繰り延べてきたものの出口を、増税まで含めて、いま確かめておく」ことです。手続きは税理士の先生と、契約の法的な精査は提携する弁護士と、それぞれの専門家と連携しながら、社長の判断の土台になる財務の実像を組み立てます。狙い撃ちに、慌てて反応するのではなく、先に出口を見ておく。決めるのは、最後まで社長です。
ひとつ、付け加えます。「うちは所得が2,400万円もないから、防衛特別法人税は関係ない」——そう思う社長こそ、注意してください。繰り延べた利益が出口で一気に戻る年は、課税所得がふだんの何倍にも跳ね上がります。その年だけ、防衛特別法人税の対象に入ることは、十分あり得ます。当てはまってから慌てるのではなく、まだ当てはまらない「いま」のうちに、出口を精査しておく。今は「関係ない」と思っている会社ほど、いちど確かめてみませんか。それが、いちばん静かで確実な備えです。
利益が出たら、できるだけ節税しておいた方が得ですよね?
一概には言えません。中小企業の節税の多くは繰延型で、税金を消すのではなく先送りしているだけです。先送りが得になるのは、将来の税率が今より低い場合。ところが2026年の防衛特別法人税を境に、長く続いた減税の流れは上向きに転じました。税率が上がる局面では、繰り延べた利益が戻るときに、かえって多く払うことになりかねません。「節税は得」と決めつけず、いつ・いくら戻ってくるか、その出口まで見て判断することをおすすめします。具体的な税額計算は顧問税理士にご確認ください。
繰延型の節税は、結局まったく意味がないのですか?
そうではありません。繰延型の節税は、税率が下がっていく局面や、退職・引退という本当の節目に備える局面では、有効な手段になり得ます。問題は、入り口の節税額だけを見て、出口(繰り延べた利益が戻って課税されるタイミング)を見ていないことです。特に今は、長く続いた減税の流れが2026年の防衛特別法人税で反転し、過去に繰り延べた利益の出口も重なりつつあります。出口まで見たうえで使えば、繰延型は今も選択肢のひとつです。
出口で戻る利益に、また別の節税(航空機リースなど)をぶつければいいのでは?
それも先送りの一種で、注意が必要です。航空機や船舶などに出資して初年度に大きな損金を立てるタイプは、それ自体が繰延型です。今年の税金は消せても、数年後には初年度の損金が反転して、また利益が立ちます。もっと大きな出口を、もっと先に作るだけで、しかも税率は上がる方向です。入り口の経費の大きさではなく、出口で資金が戻るか・途中で抜けられるか・誰がリスクを負うかを、契約の中身から確かめることが大切です。税務処理の可否は顧問税理士に、契約の法的な精査は弁護士にご確認ください。
いきなり「節税をやめろ」とは言いません。これまでの節税と、自社の決算の数字を一緒に開いて、いつ・いくら戻ってくるのか、その出口をつかむところから始めます。ご相談は、熊本・福岡・佐賀へ私たちがお伺いする訪問を基本に、オンラインでも承っています。
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