INTEREST RATES & BORROWING | KUMAMOTO

金利が上がった。
まず、借金を返すべきか。

銀行からは「繰上返済を」「固定に借り換えを」と話が来る。
でも、その前に見るべき数字があります。焦って動くほど、危ない。

長く続いた「金利のない世界」が、終わりました。日本銀行は2024年にマイナス金利を解除し、2026年6月には政策金利を1.00%まで引き上げています。短期プライムレートが動けば、変動で借りている多くの会社の返済にも、じわりと効いてくる。熊本の経営者のもとにも、取引銀行から「繰上返済を検討しませんか」「固定金利に借り換えては」という話が、そろそろ届き始めているはずです。

この記事は、金利予想の解説ではありません。次の一手を、右に倣えで決めないための話です。結論を先に言えば——金利が上がった今こそ、いちばんやってはいけないのは「焦って動くこと」です。まず返す、慌てて借り換える、その前に見るべき数字がある。その数字を、順番に開いていきます。

論点 1 / “まず借入を減らせ”への疑問

「まず借入を返せ」——その前に、利息の“実額”を見てください

業界がこう言っている 金利が上がったら、まずは借入を減らすこと。余っている預金で繰上返済し、遊休資産を売り、追加の借入は絞る。利息の負担を、とにかく軽くする。

どの解説記事も、対策の一番上にこれを置きます。もっともらしい。けれど、ここには落とし穴があります。「利息が増える」という言葉の“実額”を、経営者が見ないまま、雰囲気で焦ってしまうことです。まず、金利が上がると、いくら増えるのか。ざっくりとですが、こういう規模感です。

借入残高0.25%上がるごと(年)累計1.00%なら(年)
3,000万円約 7.5万円約 30万円
5,000万円約 12.5万円約 50万円
1億円約 25万円約 100万円
3億円約 75万円約 300万円

※ 借入残高に金利上昇幅を掛けただけの単純な目安です。実際は変動・固定の別、借入の種類や残高の推移で変わります。あくまで規模感をつかむための数字として。

決して小さな額ではありません。ただ——この実額を、御社の月商や、年間の粗利と並べて見たとき、どう映るでしょうか。慌てて手元の現金を全部はたいて返すほどの、緊急事態でしょうか。多くの場合、答えは、もっと冷静なものになります。利息は「増えた費用」ですが、金額にすれば、経営で御しきれる範囲であることが少なくないのです。

むしろ怖いのは、その逆です。「金利がもったいない」と、手元の現金を薄くしてまで繰上返済してしまう。そして、いざ設備が壊れた、大口の仕入れが必要になった、売上が一時的に落ち込んだ——というときに、現金がなくて身動きが取れなくなる。金利は“払う費用”ですが、現金は“生き延びる力”です。天秤にかけるべきは、数十万円の利息と、手元にいくら現金を残しておくかという安心。この二つを並べずに、利息だけを見て返すのは、順番が違います。

もう一つ、見落とされがちな価値があります。金利が上がるたびに「返すべきか、借り換えるべきか」と“金策”に神経をすり減らす——その状態そのものが、経営にとって大きな損失だということです。社長の時間と集中力は、会社でいちばん希少な資源です。それを資金繰りのやりくりに吸い取られるより、本業に思い切り集中できる資金の環境を保つことのほうが、利息を数十万円節約する以上の価値を生むことが、少なくありません。手元に現金の余裕があれば、金利のニュースが出るたびに、いちいち慌てなくて済みます。その落ち着きこそが、本業の利益を生むのです。

利息は費用にすぎない。現金は、いざという時の唯一の防波堤だ。焦って返して、防波堤を低くしてはいけない。

論点 2 / 固定金利への借り換え

固定金利への借り換えは、この局面には、理にかなう一手です

業界がこう言っている 変動金利で借りているなら、固定金利に借り換えて、これ以上の上昇リスクを止めるべきだ。

こちらは、私も素直に同意します。金利がこれから上がるのか下がるのか、正確に当てられる人はいません。だからこそ、「上がっても返済額が変わらない」という安心を、あらかじめ買っておく——固定金利への借り換えは、先が読めない局面ほど、理にかなった考え方です。返済計画が立てやすくなり、資金繰りの見通しも安定します。

ただし、条件が一つ。「変動を、全部一律に固定へ」ではありません。借入には、種類も、残っている期間も、使い道も、それぞれ違いがあります。あと少しで返し終わる短い借入まで慌てて固定に替える必要はないかもしれないし、長く付き合う設備資金こそ固定の安心が効くかもしれない。どの借入を固定にし、どれは変動のままでいいのか——ここは、御社の借入を一本ずつ並べて見てからでないと決められません。「固定がいいらしい」で全部を動かすのは、それはそれで乱暴です。

固定にするかどうかは、先を当てる勝負ではない。「変わらない安心」を、どこに、いくらで買うかの判断だ。

論点 3 / 金利交渉の“本当のやり方”

金利交渉は、頭を下げて値切ることではない。銀行に“渡す情報”の勝負です

業界がこう言っている 取引銀行と金利を交渉し、財務体質を改善して評価を上げ、少しでも良い条件を引き出すべきだ。

これも、大事なことです。金利交渉は、やるべきです。ただ、「交渉」という言葉で、頭を下げて値切る絵を思い浮かべているなら、それは違います。本質は、値切りではありません。

ここに、大事な事実があります。銀行員は、御社の中身を、社長ほどには知りません。彼らが見ているのは、決算書という限られた窓からの景色です。その窓の外側にある——どんな事業でどう稼いでいるのか、この設備投資が来期どう効いてくるのか、なぜ今この在庫を抱えているのか——といった生きた文脈は、社長にしか語れない。だから、金利交渉の本当の中身は、社長が自社の数字を体系的に理解したうえで、銀行員が判断しやすい形に整えて、情報を“渡してあげる”ことです。

これは、借りる側と貸す側のあいだにある「情報の非対称」を、借りる側から埋める行為です。銀行は、判断材料が乏しいほど、リスクを高く見積もり、金利も保守的にせざるを得ません。逆に、返済力の裏づけが明快に伝われば、金利や条件を見直す“理由”を、銀行の側に渡せる。交渉のテーブルは、値切りの気迫ではなく、渡す情報の質で整うのです。そしてこの「自社の数字を、銀行に伝わる言葉に翻訳する」ところこそ、私たちのような財務の伴走者が、いちばんお役に立てる場所です。

銀行が高い金利をつけるのは、意地悪だからではない。御社のことを、社長ほど知らないからだ。

論点 4 / 本当に見るべき数字(この記事の核心)

金利が上がると、“赤字にならない最低ライン”が動く。焦って決める前に、その変化をつかむ

ここまでの三つ——返す・借り換える・交渉する——は、どれも「打ち手」の話でした。でも、打ち手を選ぶ前に、必ず見るべき数字があります。それが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

支払う利息は、売上が増えても減っても、まず出ていく費用です。金利が上がるとは、この“出ていく費用”が増えるということ。費用が増えれば、赤字にならないために必要な最低ラインの売上——いわゆる損益分岐点——が、上がります。つまり、「去年と同じ手残りを確保するには、あといくら多く粗利を稼がないといけないのか」が、金利上昇によって変わるのです。

金利上昇の本当の重みは、利息の数十万円という金額そのものよりも、この損益分岐がどれだけ動いたかにあります。ほんの少ししか動かないなら、慌てる必要はない。想像以上に動いているなら、値上げなのか、原価の見直しなのか、あるいは借入そのものの組み替えなのか——手を打つ順番が見えてきます。この“変化の大きさ”を数字でつかまないまま、「銀行に言われたから」「まわりが繰上返済しているから」で動くのが、いちばん危ない。

私たちが最初にするのは、“金利が上がった後の損益分岐”を、数字で見えるようにすることです

返済プランを組むことでも、銀行を紹介することでもありません。私たちがまずするのは、金利が上がったことで、御社の「赤字にならない最低ライン」が、どれだけ上に動いたのかを、はっきり数字で見えるようにすること。そのうえで、返すのか、固定に借り換えるのか、金利を交渉するのか、あるいは今は動かず現金を厚く保つのか——を、雰囲気ではなく、自社の数字を根拠に、冷静に選んでいきます。

そして、その出発点は、いつも同じです。財務と、収益構造の棚卸し。どの借入が、どんな条件で、いつまで残っているのか。粗利はどの事業から生まれ、固定費はどこにいくらかかっているのか。ここが整理されていない状態で金利対策だけを議論しても、砂の上に家を建てるようなものです。決めるのは、最後まで社長ご自身。私たちは、その判断の土台となる数字を整えます。

なお、税理士の先生が守ってくださる「過去の記帳の正確さ」と、私たちが見る「これからの意思決定」は、役割が違います。どちらが上ということではなく、両輪です。過去の数字を正しく締めるプロがいて、その数字を未来の判断に翻訳する伴走者がいる。金利のある世界では、この後者の役割が、これまで以上に効いてきます。

論点 5 / 視点を、丸ごと変える

金利は“払うコスト”。では、あなたの本業は、いくらで回っていますか

最後に、視点を一つ、丸ごと変えてみます。ここまで、金利を“払うコスト”として見てきました。けれど、コストの話ばかりをしていると、経営はどんどん守りに縮こまっていきます。そこで、決算書を、いつもと違う角度から読んでみてください。「利回り」の角度です。

本業に投じているお金——設備、在庫、人、運転資金——が、一年でどれだけの利益を生んでいるか。これが、あなたの本業の“利回り”です。決算書は、税金を計算するための書類としてではなく、この利回りを映す鏡として読むと、まるで違う世界が見えてきます。数字は同じなのに、見える景色が変わるのです。

たとえば、本業がしっかり利回りを出せているなら、金利の1%や2%は、その果実の一部を回すコストにすぎません。借りて本業に投じ、それ以上を稼ぐ——これは、健全な会社の当たり前の姿です。逆に、本業の利回りが借入の金利に近づいている、あるいは下回っているなら、それは金利のせいではなく、本業そのものの稼ぐ力を見直すサインです。金利上昇は、その事実をはっきり突きつけてくれる、いいきっかけでもあります。

金利が上がったこの局面こそ、決算書を“利回り”で読み直す好機です。払うコスト(金利)と、稼ぐ力(本業の利回り)を並べて、はじめて、いま自分がどこに立っているかが見える。返すか、借り換えるか、交渉するか——という打ち手の議論も、この土台の上で考えて、はじめて順番を間違えずに済みます。私たちが決算書を一緒に開くとき、いつも大事にしているのが、この“利回り”の視点です。

金利が高いか安いかは、それ単体では決まらない。あなたの本業が、いくらで回っているかで決まる。

いちばん大事なこと

「借りるな」とも「返せ」とも、一律には言わない。決めるのは社長です

誤解のないように書きます。この記事は、「繰上返済をするな」という話でも、「もっと借りろ」という話でも、ありません。返すのが正解の会社もあれば、現金を厚く保って動かないのが正解の会社もある。固定への借り換えが効く会社もあれば、変動のままでいい借入もある。正解は、御社の借入の中身と、収益構造と、手元資金の厚みによって、変わります。

だからこそ、「金利が上がった」という一つのニュースに、みんなが同じ反応をするのが、いちばん危ないのです。周りに合わせるのでも、銀行に言われるままでもなく、自社の数字を並べて、自分の頭で決める。そのための材料を、そろえて、翻訳して、隣で一緒に考える。それが、私たちの仕事です。

まとめ

金利のある世界の借入は、焦らず、数字で、冷静に

整理します。金利が上がったら、まず利息の実額を見て、現金の厚みと天秤にかける——焦って返さない。固定金利への借り換えは、先の読めない局面には理にかなうが、全部一律ではなく、借入を一本ずつ見て決める。金利交渉は値切りではなく、社長が自社の数字を理解して、銀行に判断材料を渡すこと。そして本丸は、金利上昇で「赤字にならない最低ライン」がどれだけ動いたかを数字でつかみ、そのうえで打ち手を選ぶこと。すべての出発点は、財務と収益構造の棚卸しです。そして最後に、視点を変える——金利という“払うコスト”だけでなく、本業がいくらで回っているかという“利回り”で、決算書を読み直す。金利の高い安いは、本業の稼ぐ力と並べて、はじめて意味を持ちます。

私たちが熊本で、そして福岡・佐賀でお手伝いしているのは、この「自社の数字を並べて、金利のある世界での次の一手を、冷静に選ぶ」ことです。銀行やニュースの空気で動くのではなく、御社の損益分岐と、手元資金と、借入の中身を見て決める。決めるのは、最後まで社長です。

こんな社長に

  • 取引銀行から「繰上返済」「固定への借り換え」を勧められ、どうすべきか迷っている
  • 金利が上がって利息が増えるのは分かるが、自社にとっての“実額”と“重み”が掴めていない
  • 金利交渉をしたいが、何をどう銀行に伝えれば条件が良くなるのか分からない
  • 熊本・福岡・佐賀で、金利のある世界での借入判断を、自社の数字で一緒に考えてくれる相談相手を探している

よくある質問

金利が上がったので、手元の預金で繰上返済すべきでしょうか?

まず、金利上昇で増える利息の“実額”を確かめることをおすすめします。借入残高に上昇幅を掛けたおおよその額を、月商や年間の粗利と並べてみると、多くの場合、慌てて全額を返すほどの緊急事態ではないと分かります。むしろ、現金を薄くしてまで返した結果、設備の故障や一時的な売上減で身動きが取れなくなるほうが怖い。利息は払う費用、現金は生き延びる力です。両方を並べて、手元にいくら残すかを決めてから判断するのが順番です。返すのが正解の会社もありますが、それは数字を見てからの結論です。

変動金利を、固定金利に借り換えたほうがいいですか?

先が読めない局面では、「上がっても返済額が変わらない」という安心を先に確保できるため、固定への借り換えは理にかなった選択肢です。ただし、変動を全部一律に固定へ替えるのは乱暴です。借入ごとに残っている期間も使い道も違うため、あと少しで返し終わる借入と、長く付き合う設備資金とでは、判断が変わります。まず借入を一本ずつ並べて、どれを固定にし、どれは変動のままでよいかを見極めることをおすすめします。特定の金融機関や商品をお勧めするものではありません。

銀行との金利交渉は、何から始めればいいですか?

頭を下げて値切ることではありません。銀行員は決算書という限られた窓からしか御社を見ておらず、事業の中身や返済力の裏づけは、社長ほど知りません。だから、社長が自社の数字を体系的に理解したうえで、返済力が銀行に伝わる形に整えて情報を渡すこと——これが交渉の中身です。判断材料が増えれば、銀行も金利や条件を見直しやすくなります。私たちは、この「自社の数字を、銀行に伝わる言葉に翻訳する」お手伝いをしています。

金利が高いのかどうか、自社にとって判断がつきません。何と比べればいいですか?

金利の高い・安いは、それ単体では決まりません。比べる相手は、御社の本業の“利回り”——本業に投じているお金(設備・在庫・人・運転資金)が、一年でどれだけの利益を生んでいるか、です。本業の利回りがしっかり出ているなら、金利の1%2%はその果実の一部を回すコストにすぎません。逆に本業の利回りが借入金利に近い・下回っているなら、それは金利ではなく本業の稼ぐ力を見直すサインです。決算書を、税金計算の書類としてではなく“利回りを映す鏡”として読み直すと、いま自社がどこに立っているかが見えてきます。私たちは、その読み直しを社長と一緒に行います。

金利が上がった後の“損益分岐の変化”を、一度いっしょに見てみませんか

いきなり「返しましょう」「借り換えましょう」とは言いません。まず、金利上昇で御社の「赤字にならない最低ライン」がどれだけ動いたのか、利息の実額はいくらか、現金はいくら残すべきか——を、自社の数字で一緒に開くところから始めます。ご相談は、熊本・福岡・佐賀へ私たちがお伺いする訪問を基本に、オンラインでも承っています。

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